6月26日、衆議院本会議で消費税増税法案が可決されました。野田首相が党内の激しい反対を押し切り、野党との合意によって衆院可決にまで持ち込んだことはやや予想外でした。あまりにもだらしない首相が続いていたので、政治生命をかけるという野田首相の決意を少々甘く見すぎていたかもしれません。

 早速海外からも野田首相のリーダーシップをたたえ、「決められない日本」からの脱却を囃す論調も見られるようになっています。たしかに野田首相は、政策課題にきちんと向き合うという点で、小泉元首相以来ようやく現れた首相らしい首相といえるかもしれません。

 しかし、一定の評価はされるべきではあるものの、民主党内反対派が事前の予想を上回るなど、野田首相にとっては限りなく敗北に近い内容だったこともまた事実です。

 

増税は必ずしも問題解決につながらない

 まだ参議院での審議を残していますし、紆余曲折がこれからもあると予想されますが、ここでは最終的に消費税増税法案が成立するものとして話を続けましょう。

 この増税法案成立で日本の財政問題が解消するかといえば、前々回にも述べたとおり、これだけでは全く不十分です。債務残高が急増するスピードが緩められるだけで、そのトレンドまで変えることはできません。つまり、今回の消費税増税は、せいぜい財政危機の発生を少しの間、先送りするだけの効果しかありません。

 そもそも、消費税増税だけで財政問題を解決するのは困難です。段階的な増税に加え、抜本的な歳出改革と社会保障改革、そしてなによりも持続的な税収増をもたらすための成長促進策が不可欠です。消費税増税はこれらとセットで行うべきというのは多くの識者が指摘している通りですが、ここでは消費税増税を先行させることの政治的リスクを指摘しておきましょう。

 巷でよく言われる「消費税増税が景気に破壊的なダメージをもたららし、かえって税収を減らしてしまう」というのは明らかに行きすぎた懸念です。1997年の消費税増税後、日本はデフレに陥り、結局現在の税収は97年以前の税収よりも大幅に減っていますが、それを「消費税を増税したために税収が減った」と決めつけるのはこじつけでしかありません。ですが、こうしたロジックは増税反対派にとっては強力な武器になります。

 消費税増税によって景気にダメージがあるのは事実ですし、今回の増税で財政不安、あるいは社会保障制度の持続性に対する不安が払しょくされて消費マインドが改善するという効果も期待は難しいでしょう。欧州危機が拡大し、日本経済に波及するリスクも考えられます。いずれにしろ、日本経済が停滞すれば、すべての責任は消費税増税に押しつけられ、増税推進派は選挙で手痛い敗北を喫することになるでしょう。

 そうなると、再び政界で消費税恐怖症がはびこり、つぎの増税はさらに極めて高いハードルを課せられることになります。今回は野田首相が1997年の消費税トラウマを克服しつつありますが、次も第二の野田首相が現れる保証はありません。

 つまり、今回の増税先行策がかえって将来の増税を難しくしてしまうということが政治的に大きなリスクとなりうるのです。

 

それでも増税が必要な理由

 では、増税抜きでの財政再建は可能なのでしょうか。

 小泉元首相とそのブレーンだった竹中平蔵氏の流れをくむいわゆる上げ潮派にいわせれば、経済成長を促進することで増税に頼らない財政問題解消が可能であるということになります。もちろん、机上の理論ではそうかもしれません。ただし、現在の日本は少子高齢化に企業の国際競争力低下が加わり、大きな構造圧力にさらされています。成長を促進すること自体がとても難しい課題なのです。

 これに関連して、デフレと円高が企業を苦しめているのだから、日銀の金融緩和によってデフレと円高を解消すればいいという議論もあります。これも議論としては成り立つにしても、はたして金融政策がどこまで効果を持ちうるかは実際のところ大いに疑問が残ります。この議論にも、やはり今の日本経済がさらされる構造的な圧力を軽視しているきらいがあります。

 私は小泉元首相のリーダーシップをとても高く評価しているのですが、財政政策に関しては、これらの点から上げ潮派に全面的には賛同できません。小泉政権時代にはあるいは筋がとおっていたのかもしれませんが、現在の状況で、成長(だけ)によって財政問題を解決するという政策論は現実味を失いつつあると思います。

 とくに、リーマンショック後、アンチ・ビジネスの風潮が大きな影響を持つようになっています。これは、日本だけに限らず世界的な現象ですが、とりわけ日本では、市場競争を忌避し、内に閉じこもり、政治的な再配分に過度に依存しようという傾向が強くなっているように思います。

 こうしたアンチ・ビジネス論、あるいは成長不要論の中で、経済成長が果たして人々の幸福に結び付くのかという問いかけがされることがあります。これは確かに重みを持つ問いかけですが、一方で成長がなければ経済は衰退していき、財政危機も回避できないという現実的な問題があります。本質的な議論を回避していると言われればその通りなのですが、財政危機が起きればより多くの人が不幸せになることを無視して議論をするのもまた机上の議論と言わざるを得ないでしょう。

 いずれにしろ、最終的に日本が財政問題を解決するには成長を取り戻すことが不可欠です。しかし、それには政策の方向性も世論もすべてを変えていかなくてはなりません。それには長い時間と労力がかかり、強力なリーダーシップを要します。そして、その間にも財政状況は刻一刻と悪化していくのです。

 同様のことが歳出構造の改革や社会保障改革についても言えます。これらも財政問題解決のためには不可欠なものですが、実現するには長い時間と多大な労力、そして政治的なリーダーシップが必要です。

 ですから、これらの改革を進めると同時に、時間を買うための消費税増税が必要なのだというのが私の意見です。逆にいえば、消費税増税は、歳出構造改革・社会保障改革、成長促進策のための時間を買う政策ですから、後者の視点が欠けた増税一本やりの政策もまた片手落ちだということになります。

 

 

 結局、消費税増税はいずれにしても不可避ですし、消費税先行策も何もやらないよりははるかにましですが、今回の対応だけでは問題解決に程遠く、今後の政局の展開次第ではその努力も全くの水泡に期してしまう可能性が多いにあるということだと思います。日本の財政危機発生は、少しは先延ばしされた感はありますが、それは単にタイミングの問題であり、リスクは依然として高いままと言わざるを得ないでしょう。

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